ご訪問ありがとうございます。
映像翻訳者のelly(@ellyeblog)です。2025年もよろしくお願いします。
2024年は、映像翻訳の仕事が倍増し、とてもありがたい年でした。
仕事が増えたきっかけは、しばらく疎遠になっていた翻訳会社に送った 1枚の年賀状 。
またお役に立てることがありましたらよろしくお願いします。」
と、近況報告と営業を兼ねたもの。
営業メールはこれまで何度かスルーされた経験がありますが、こういうのはタイミングもあるのでしょうね。
年明けすぐに仕事の依頼が来て、その後もほぼ途切れることなくお仕事をいただくことができました。
仕事が来なくなっても諦めなくてよかった。
「仕事ください」系のメールって、送っていいのか悩ましいものですが、新年の挨拶や、生活環境に変化があったタイミングなら割と送りやすいのでおすすめかもしれません。
そしてこの1年はこれまでと違い、「字幕翻訳」ではなく「字幕翻訳チェック」の仕事が9割を占めました。
携わった作品数を数えてみたら、1年で80作品(※シリーズ物は1話を1つと数えました)。
チェッカーの仕事の楽しさや魅力に気づいた1年でもあったので、今回は映像翻訳の仕事の一部である「字幕翻訳チェッカーの仕事」についてまとめてみたいと思います。
- 字幕の「翻訳チェッカー」ってどんなことするの?
- 「翻訳者」と何が違うの?
- 初心者でも仕事を始めやすいってホント?
そんな疑問をお持ちの方の参考になれば幸いです。
字幕翻訳チェッカーとは?
字幕翻訳チェッカーとは、翻訳者が仕上げた字幕を校正する仕事です。
やり方は翻訳会社によって多少違うと思いますが、基本的には、翻訳者の字幕を映像上で確認し、気付いた点をフィードバックします。単に「ここを修正してください」と伝えるのではなく、代案まで考えるのがチェッカーの仕事です。
- 制作会社のルール・仕様に合っているか
- 誤字・脱字はないか
- 誤訳はないか
- 表記の揺れはないか
- 字数オーバーで読み切れない字幕はないか
- 流れが分かりにくい字幕はないか
- 話のつじつまが合っているか
④の「表記の揺れ」は、作品ごとに翻訳者と用語リストを共有して作業することが多いので(ない場合は自分で作る)、それを都度参照し、作品を通して表現を統一させるようにします。話数の多いシリーズ作品や、複数の翻訳者で話数ごとに分担している場合は特に、1人のチェッカーが全体に目を通すことは大事だと感じます。
⑥は非常に奥が深いところ。
原文を隅々まで読み込んでいる翻訳者とは違い、視聴者は字幕の情報だけが頼りです。翻訳者の頭にはあってもその情報が字幕に反映されていないと、流れが分かりづらかったり、指示内容が何を指すのか分からなかったり、2通り以上に解釈できたりして、視聴者は混乱してしまいます。
昔、翻訳学校でも、「視聴者の頭に?マークが浮かぶ訳はダメ」と習いました。
なので私もチェックの際はまず原文は見ず、一視聴者として字幕だけで全体を鑑賞します。そして少しでも「ん?」と引っかかった箇所をマーキングしておき、その後、原文と照らし合わせる作業をします。
この「客観的に観る」というのは、翻訳でも大切なこと。「自分の訳は一晩寝かせてから見直すとよい」ともよく言われます。
翻訳者とチェッカーの違い
翻訳者より作業量が少なく、納期が早い
翻訳者の作業は、大まかに言うと以下の3工程。
①スポッティング(セリフを区切る)→②ゼロから翻訳(調べ物・裏取りも必須)→③推敲・見直し
一方のチェッカーは、主に③の部分のみを担当するイメージ。
そのため作業時間は翻訳者より少なく、急ぎのものでは1作品1~2日で納品ということもあります。ただし映像自体は早めにいただけることが多いため、どんな作品か事前に観て準備しておくことができます。
翻訳者より単価は安い
チェッカーは作業負担が少ない分、単価は翻訳者より安くなりますが、時給に換算すれば変わらないか、チェッカーのほうが結果的に良い場合もあります。
翻訳者ネットワーク「アメリア」を見ると、チェック単価が「映像尺10分/1,000円~(実力に応じて変動)」という求人情報もありました。この場合、翻訳単価の6分の1以下になってしまいますが、実績を積んでいけば10分/2,000円~と上がっていく可能性もあります。
そしてチェックする字幕の質が良かったり、調べ物が十分にされていればチェッカーの仕事は楽ですし、逆に修正箇所が多かったり、チェッカーが追加で調べ物をする必要があるような字幕であれば、チェッカーの仕事量は増えます。こればかりは実際に引き受けてみないと分かりません。
チェッカーの名前はクレジットに出ない
これが私の思う唯一のチェッカーのマイナス点かもしれません。
やはり映像翻訳者としては、エンドロールの終わりやDVDのジャケットに「字幕翻訳 〇〇〇〇」と自分の名前が載ったらうれしいもの。
でもチェッカーの名前は決して表に出ることはなく、名前が売れることもありません。ある意味、下積み・裏方のポジションと言えるかもしれません。
チェッカーの仕事の魅力
翻訳者とはまた違った字幕翻訳チェッカーの仕事の魅力として、私が感じていることは以下の5つです。
- いろんな作品を視聴者として観られる
- プロの翻訳者の字幕から学ぶことができる
- 時間的負担が少なく、両立しやすい
- 翻訳経験が少なくても、実績を積みやすい
- 作品を「より良いもの」にした満足感が得られる
チェッカーにも翻訳経験が求められることはありますが、私がこれまで求人情報を見てきた限り、翻訳者よりはチェッカーのほうが初心者にとって敷居は低い気がします。そしてプロの翻訳者の訳に触れ、(お金をいただきながら)学んでいくことで、1つの作品を最初から任せてもらえる翻訳者への道も開けていくような気がします。
初見では分かりにくかった箇所をすっきり改善できたり、より良い訳を提案できたりした時は、本当にチェッカーとしての醍醐味を感じます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
作業量の面や、ベースの字幕があるという点では、「翻訳者よりもチェッカーのほうが楽」と言えますが、チェッカーも、制作会社に渡す前の「その作品の最終責任者」という緊張感とやりがいのある仕事だと思います。
そして仕事とは言え、翻訳者から字幕データが送られてきて、いざ映像に字幕を載せて作品を観始める瞬間は、趣味で映画やドラマを観る時と同じように毎回ワクワクする、とても楽しい仕事です。
必要とされる限り、今後も字幕翻訳チェッカーとして、より良い作品作りに貢献していきたいものです。
最後までお読みいただきありがとうございました。