こんにちは、中華圏の映画が好きなフリーランス映像翻訳者のelly (@ellyeblog) です。
中国映画好きが高じ、「いつか中国映画を翻訳したい!」との思いで北京に「翻訳留学」に行ったのは今から9年前の31歳のとき。1か月半の滞在中は、中国映画関係の翻訳の授業を個人レッスンで受け、また「北京電影学院」や「中国電影博物館」を見学(観光)するなど、中国映画の世界にどっぷりハマった時期でした。そのおかげか帰国後は、英日に加えて中日の映像翻訳の仕事も少しずついただけるようになった私です。
今回は、そんな私がこれまでに観た中国映画の中から、特に印象に残っている作品をご紹介。なお張芸謀(チャン・イーモウ)監督作品は好きな作品が多すぎたので、別記事にまとめました▼
\\ 今回紹介した映画を観るならこちら //
黄色い大地
黄土地(Yellow Earth)
中国 / 1984年(日本公開1986年)/ 94分
監督:陳凱歌(チェン・カイコー)
脚本:張子良(チャン・ツーリャン)
出演:王学圻(ワン・シュエチー)/ 薜白(シュエ・バイ)
第五世代(中国新世代映画)の始まりとなった、記念碑的作品
今や中国映画界の巨匠と呼ばれるチェン・カイコー監督のデビュー作で、チャン・イーモウ監督が撮影スタッフとして関わっている貴重な作品。圧倒されるぐらい広大な「黄色い大地」と、それと対比されるかのような人間のちっぽけさが、まず映像として面白い。そして、古い慣習に生きる貧しい村人たちの力強い民謡の歌声が心に響きます。
ラストシーン(=約束どおり再び村を訪れたクー・チン(中央政府の人)を遠くに見つけ、群衆をかき分けながら村の子供が必死に駆け寄ろうとするけどなかなか近付けない、というシーン)は、初め意味がよく分からなかったのですが、これはつまり本作品の主題である、近代化の進む中央と貧しい地方との決して縮むことのない隔たりを象徴しているとのこと。奥が深いですね。
その後のチャン・イーモウ監督作品に影響を与えたと思われる場面がたくさん登場する点も興味深かったです。
太陽の少年
陽光燦爛的日子(In the Heat of the Sun)
中国・香港 / 1994年(日本公開1997年)/ 128分
監督:姜文(チアン・ウェン)
脚本:姜文(チアン・ウェン)
出演:夏雨(シア・ユイ)/ 寧静(ニン・ジン)/ 王学圻(ワン・シュエチー)/ 斯琴高娃(スーチンカオワー)
文革時代に自由を謳歌した、少年たちのほろ苦い夏の思い出を描く
なかなか見ごたえのある映画でした。文革時代を描いた中国映画というと、社会主義のスローガンや悲惨さに満ちたイメージですが、子どもたちがこんなに自由(ある意味、自由すぎる)を謳歌していたのかという驚きもあって新鮮でした。映像も美しく、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の曲が多感な若者の心理描写とよく合っていました。
本作がデビュー作になるシア・ユイは、オーディションでチアン監督が自分にそっくりな少年を選んだだけあって、確かに似ている。決して美少年ではないですが、年上の女性に憧れる不良少年という役にはピッタリ。同じく、決してスタイルはよくないけれど、ワンピース姿の豊満なヒロインには、女の私も思わず魅了されてしまいました。
變臉(変面)この櫂に手をそえて
變臉(The King of Masks)
中国・香港 / 1996年(日本公開1997年) / 101分
監督:吴天明(ウー・ティエンミン)
脚本:魏明倫(ウェイ・ミンルン)
出演:朱旭(チュウ・シュイ)/ 周任瑩(チョウ・レンイン)/ 趙志剛(チャオ・ジーカン)
伝統芸能「変面」を題材に、老人と少女の絆を描いた傑作
数ある中国映画の中でも、特に好きな作品の1つ。とにかく「変面」という中国の伝統芸能の技が凄い!そしてお爺さんと女の子の演技が素晴らしい!お爺さん役の朱旭(チュウ・シュイ)さんは、NHKドラマ 『大地の子』 のお父さん役でも有名な方。やさしい雰囲気がとても好きです。
人身売買という重苦しいテーマを扱っていますが、師弟としての絆、親子としての絆には感動します。
中国映画博物館(北京)でも、この作品は大きく紹介されてましたが、残念ながら日本ではDVDは出ておらず、ぜひまたテレビで放送していただきたいものです。ちなみに、タイトルの漢字が難しいのですが、読み方は「變臉(へんめん)この櫂(かい)に手をそえて」です。
始皇帝暗殺
荊軻刺秦王(The First Emperor)
中・日・仏・米 / 1998年(日本公開1998年)/ 168分
監督:陳凱歌(チェン・カイコー)
脚本:陳凱歌(チェン・カイコー)
出演:李雪健(リー・シュエチェン)/ 鞏俐(コン・リー)/ 張豊毅(チャン・フォンイー)/ 王志文(ワン・チーウェン)/ 周迅(ジョウ・シュン)/ 孫周(スン・ジョウ)
天下統一を目指す秦王の暗殺計画をめぐる壮絶な物語
3時間の長編大作。ですが、1回だけでは人間関係が把握しきれなかったので、2回観てしまいました。スケールの大きさと豪華俳優人の演技、そしてドラマがしっかり融合していて面白かったです。
構想8年、製作費60億円、製作期間3年。この映画のために建てられたという秦の宮殿「咸陽宮」もこれがセット!?と思うくらい巨大でビックリします。
チェン・カイコー監督自身、息子に殺される重要な役を演じているのですが、監督は文革時代に実の父親を糾弾した経験があるそうで、そんな心の傷が滲み出てか、素晴らしい演技をしていました。豪華キャストの中、個人的には暗殺者役のチャン・フォンイーさんが良かった。でも一番印象に残ったのは、冒頭ですぐに死んでしまう盲目の少女を演じたジョウ・シュンさんでした。
エンドクレジットで流れる小室哲哉さんプロデュースの主題歌も良いのでじっくり余韻に浸れます。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm14024374
(日本語版+中国語版が聴けます)
山の郵便配達
那山那人那狗(Postmen in The Mountains)
中国 / 1999年(日本公開2001年)/ 93分
監督:霍建起(フォ・ジェンチー)
脚本:思蕪(スー・ウー)
出演:滕汝駿(トン・ルゥジュン)/ 劉燁(リウ・イエ)/ 趙秀麗(チャオ・シュウリー)
緑濃い山奥の郵便配達の親子の姿を通して、家族の絆を描く
定年を迎えた父の、最初で最後の息子との「郵便配達の旅」。父と息子(と犬一匹)が山道を黙々と進み、淡々とした語り口で物語は進むのですが、この「黙々と歩く父親の姿」に、とても意味があると思いました。そんな父親との旅を通して徐々に成長していく息子。そして、そんな息子をやさしいまなざしで見つめる父親。二人の距離がどんどん縮まっていくのが分かりました。特に、父を負ぶって息子が川を渡るシーンの父親の表情が印象的。ラストの数分間も、セリフなんてなくても見る者にいろんなことが伝わってきます。
この作品、息子さんを持つ父親世代の私の知人が、「大好きな作品」 と言っていましたが、年を重ねてからまた観たいと思える作品です。
きれいなおかあさん
漂亮妈妈(Breaking the Silence)
中国 / 1999年(日本公開2002年)/ 90分
監督:孫周(スン・ジョウ)
出演:鞏俐(コン・リー)/ 高炘(ガオ・シン)
生活苦と闘いながら、難聴の息子を一人懸命に育てる母と子の物語
コン・リーが観たくて観ました。夫と離婚して生活は苦しく、耳が不自由な息子は普通の学校に入れてもらえない。それでも息子に言葉を教えながら必死に働く健気な母親コン・リーの演技が素晴らしかったです。
ほとんどノーメイクでちょっと太めで服装も地味なのに、どこか美しい。魅力的な女優さんですね。
息子は、補聴器をつけているためにイジメにあったりするのですが、お母さんと一生懸命生きている姿が本当にかわいい。「花(ホア)」の発音がようやくできるようになったときなんかは私も一緒になって喜んでしまいました。そして、そんな母子に優しく接してくれるファン先生の存在にも救われます。
息子役のガオ・シン君は、幼少時の医療ミスにより本当の聴覚障害児なんだそうです。本作が映画初出演とのことですが、コン・リーに負けないくらい引き付けられる魅力がありました。
北京が舞台なので、天安門の前を自転車で走るシーンとか、中国っぽい風景(違法の路上販売も含め)も、見ていて面白かったです。
こころの湯
洗操(Shower)
中国 / 1999年(日本公開2001年)/ 92分
監督:張楊(チャン・ヤン)
脚本:張楊(チャン・ヤン)
出演:朱旭(チュウ・シュイ)/ 濮存昕(プー・ツンシン)/ 姜武(ジャン・ウー)
北京の下町の銭湯を舞台にした、親子、人々の人情悲喜劇
こころ温まる映画です。タイトル通り、観終わった後は、こころを洗い流してもらったような気分になります。中国にも、日本と同じような銭湯文化があったんですね。
ストーリーはシンプルですが、登場人物たちが様々な想いを抱えていて、じわじわと来るものがあります。特に長男は、故郷や家族と離れ、遠い深圳で自分の人生を生きている。弟の障害のことも妻には隠していて、負い目を背負って生きている。それでも、父親が倒れたのかと心配してかけつけては、銭湯での生活で徐々に自分を取り戻していく。彼の心の葛藤や気持ちの変化がとてもよく理解できました。
水が乏しい内陸地域で、花嫁が婚礼の前日に体を清めるために、両親が穀物と引き換えに貴重な水をかきあつめるエピソードなどは、さすが中国ならではという感じ。随所に「中国の急激な近代化」に向けられた監督のメッセージのようなものも感じられて良かったです。
北京ヴァイオリン
和你在一起(Together)
中国 / 2002年(日本公開2003年)/ 117分
監督:陳凱歌(チェン・カイコー)
脚本:陳凱歌(チェン・カイコー) / 薛暁路(シュエ・シャオルー)
出演:唐韻(タン・ユン)/ 劉佩奇(リウ・ペイチー)/ 陳紅( チェン・ホン)/ 王志文(ワン・チーウェン)
息子のヴァイオリンの才能を伸ばそうと奔走する父と息子の絆を描く
ヴァイオリンの天才的な才能を持つ息子と、息子の成功を必死に願う父親。いわゆる英才教育というよりは、この親子にはどこか純粋さや微笑ましさを感じ、見ていてつい応援したくなります。息子が父親の努力を無駄にしたときなどは、歯がゆい思いがしましたが、この親子の絆の強さは、ラストシーンに集約されているのでしょう。中国人が、田舎から都会北京に出てきたときの戸惑いや、中国の英才教育の競争の激しさも上手に描かれており、いかにも都会風の近所のお姉さんや、音楽の先生たちが個性的でいい味出しています。てっきりよくあるサクセスストーリーだと思っていたので、最後は意外でしたが、純粋なこの親子らしい。主演のタン・ユン君は実際にヴァイオリニストを目指している学生だけあって演奏シーンは圧巻でした。
ションヤンの酒家(みせ)
生活秀(Life Show)
中国 / 2002年(日本公開2004年) / 106分
監督:霍建起(フォ・ジェンチイ)
脚本:思蕪(スー・ウ)
出演:陶紅(タオ・ホン)/ 陶沢如(タオ・ツァールー)
頑張ってる女性にオススメ。問題を抱えながら大都会で気丈に生きる女性の物語
この作品は、たまたまテレビで放送されていて見入ってしまった記憶があります。人口3000万の大都市・重慶を舞台にしながら、街の片隅(旧市街)で生きる女性ションヤンを淡々と捉えた作品。情緒ある重慶の屋台街の風景と、主演のタオ・ホンさんが美しい。でも彼女の人生が実にやるせないのです。
本人はバツイチ。母親は彼女が幼い頃に亡くなり、父親は恋人と出て行く。兄夫婦は家庭崩壊で、兄は頼りにならず、兄嫁は憎い。大事に育てた弟は薬物中毒で更生施設へ。そして都市開発のため、自分の店は立ち退きを強いられる。そんな苦労を、ションヤンは誰に頼ることもできず一人で抱え、気丈に生きています。
「安らぎ」「頼れる男性」を求めているであろう彼女に、優しそうな常連客の男性が近づき、「ああ、これでションヤンは幸せになれるのかな」と思ったんですが…。どちらかと言うと女性受けする映画かもしれませんが、辛いことがあったときに、「もうちょっと頑張ってみよう」と思わせてくれる作品です。
ラストシーンの表情は、直前の、妊娠した若い従業員とのシーンの表情との対比が明確で彼女の健気さや希望を失わないたくましさが伝わってきました。
緑茶
緑茶(Green Tea)
中国 / 2002年(日本公開2006年)/ 89分
監督:張元(チャン・ユアン)
脚本:張元(チャン・ユアン)
出演:趙薇(ヴィッキー・チャオ)/ 姜文(チアン・ウェン)/ 方力鈞(ファン・リジュン)
緑茶のショットが美しい、都会に生きる孤独な男女のミステリアスな物語
「中国第六世代」を代表するチャン・ユアン監督と、クリストファー・ドイルのカメラワークによるオシャレ系現代中国映画。都会に生きる孤独な男女の物語で、ヴィッキー・チャオのファンにはたまらない作品ですが、一般受けはしないかも。
地味な女子大生ウー・ファンが語る“友人”の正体は?ウー・ファンと、夜の街でピアノを弾く華やかな女性ランランは同一人物なのか?そんな謎を含みつつ物語は進んでいき、最後もはっきりと結論を語らない終わり方です。でも、ランランが「女を殴る女は最低」と平手打ちをするシーン、最後の磨りガラス越しのメガネなど、何となくにおわせています。
全編を通して、アップに耐えうるヴィッキー・チャオの美しさと、北京のオシャレなお店、グラスの中に広がっていく緑茶の美しさに見とれてしまう作品です。
小さな中国のお針子
巴尔扎克与小裁缝(Balzac et la Petite Tailleuse Chinoise)
中国・仏 / 2002年(日本公開2003年)/ 110分
監督:戴思杰(ダイ・シージエ)
脚本:戴思杰(ダイ・シージエ) / ナディーヌ・ペロン
出演:周迅(ジョウ・シュン)/ 陳坤(チェン・クン)/ 劉燁(リュウ・イエ) / 王双宝(ワン・シュアンパオ)/ 王宏偉(ワン・ホンウェイ)
文革時代、山村に送られた青年たちと、禁じられた文学との出会いで自我に芽生えていく少女の苦い青春を描く
中国ならではの歴史背景・風景の詰まった、地味だけどいい作品でした。文化大革命の時代に、知識層の青年が再教育のため農村に送られ、そこで出会った無垢な少女との苦い青春を、禁書である西洋文学への興味と絡めて描く。禁じられることでかえって増す、知識と外の世界への欲求が伝わってきます。
劇中、「1冊の本が人生を変えることがある」というセリフがありましたが、農村の娘が外国小説に触れるうちに自由に目覚め、最後には一人で村を出ていくほど、芯の通った女性へと変わっていきます。
農村の暮らしが貧しいとはいえ、愛する人を残し、山道を一人孤独に延々と歩いてまで、外の世界を求めるなんて、と最初は思ってしまいましたが、彼女の姿には何か教えられるものがあります。
全編を通して、中国の山岳地帯の風景が美しく、最後、三峡ダムのために村が思い出と共に湖底に沈んでいく映像は何とも切なかったです。
ココシリ
可可西里(Kekexili: Mountain Patrol)
中国 / 2004年(日本公開2006年) / 88分
監督:陸川(ルー・チュアン)
出演:多布傑(デュオ・ブジエ)/ 張磊(チャン・レイ)
チベットカモシカの密猟者を追う山岳パトロール隊の男たちの闘いを描く
これまたすごい作品に出合いました。チベット高原北部のココシリに棲息するチベットカモシカを保護するために無償で闘うチベットの男たちを描いた秀作。あまりにも衝撃的で、しかも実話が元ということで、見終わったときは言葉を失いました。まず日本では作れないだろう映像と題材という意味でも必見です。
男たちが闘う相手はもちろん密猟者なのですが、この作品では、自然の恐ろしさ、残酷さも容赦なく描かれています。特に、隊員の一人が流砂に飲まれるシーンは強烈に印象に残りました。
チベットカモシカの保護活動を維持するために、密猟されたその皮を売らなければならないという皮肉。密漁する側には、密猟しか生きる術がないという皮肉。こうした現実があることも思い知らされます。
あまりにも犠牲が多かったので、チベットカモシカの生息数が回復したというテロップが最後に流れたときは、救われる思いがしました。ぜひ多くの方に観ていただきたい作品です。
胡同(フートン)のひまわり
向日葵(Sunflower)
中国 / 2005年(日本公開2006年)/ 132分
監督:張楊(チャン・ヤン)
脚本:張楊(チャン・ヤン)/ 蔡尚君(ツァイ・シャンジュン)
出演:孫海英(スン・ハイイン)/ 陳冲(ジョアン・チェン)/ 劉子楓(リウ・ツーフォン)
画家の夢を息子に託す父と、反発しながら同じ道を歩む息子の30年の葛藤を描く
BSでたまたま放送していて、どんなストーリーか知らずに観たのですが序盤から雰囲気が良く、そのまま飽きることなく最後まで観てしまいました。文化大革命で6年ぶりに家に戻ってきた父と、9歳の息子シャンヤン。文革により奪われた画家の夢を息子に託そうとする父と、厳しい父に反発しながらも同じ道を歩む息子の30年にわたる日々を描いたものです。
息子が反発したくなるのも分かるような頑固な父親なのですが、後半はむしろ切なさが増していきました。特に、32歳になった息子の初の展覧会を観に行き、何も言葉は交わさず、ただ息子と握手する姿にジーンときました。ようやくこれで幸せな親子の生活か、と思っただけに最後は意外な展開でしたが、文革という厳しい時代を経験した、あの時代の中国の父親の複雑な心理が伝わってきました。30年という時の流れの中、親子と共に変化していく北京の街並みも見ていて興味深かったです。
ちなみに胡同(フートン)とは、昔ながらの北京の住宅街で、細い路地と中庭を囲む平屋が特徴的な小さな共同体といった感じ。とても風情があるのですが、残念ながら今は開発のため取り壊しが進んでおり、この映画のラストシーンでも、そんな現代の様子が効果的に使われていました。
SAYURI
米・日・中 / 2005年(日本公開2005年)/ 146分
監督:ロブ・マーシャル
出演:章子怡(チャン・ツィイー)/ 楊紫瓊(ミシェル・ヨー)/ 鞏俐(コン・リー)/ 渡辺謙 / 役所広司 / 工藤夕貴/ 桃井かおり / 大後寿々花
恋焦がれる男性に再び会いたい一心で、苛酷な芸者の道を生きる少女の物語
これは中国映画と呼んでよいのか分かりませんが、中国三大美人女優の存在感がすごかったのでぜひ紹介。あまり期待せずに観たのに、想像以上に気に入ってしまった作品です。
中国人が日本人を演じて英語を喋る、という設定にもあまり違和感はなく、それ以上に、文句なしに美しい映像と芸者役の女優陣にうっとりしっぱなしでした。あんなに日本(京都)を美しく撮ってくれると、嬉しくなります。そして、チャン・ツィイー、ミシェル・ヨー、コン・リーの中国三大美人女優の存在感がすごいこと。特にチャン・ツィイーさん、まさにアジアン・ビューティーですね。ラストシーンの表情も、本当に素晴らしいと思いました。さゆり(チャン・ツィイー)の少女時代役の大後寿々花さんも大女優陣に負けないくらい光ってました。芸者の描き方とか、「こんなんでいいの?」と思う点はありましたが、「日本の美しさ」が大切にされていたと思える作品です。
胡同の理髪師
剃頭匠(The Old Barber)
中国 / 2006年(日本公開2008年) / 105分
監督:哈期朝魯(ハスチョロー)
脚本:冉平(ラン・ピン)
出演:靖奎(チン・クイ)/ 張耀興(チャン・ヤオシン)/ 王洪濤(ワン・ホンタオ)/ 王山(ワン・シャン)
93歳の理髪師の生活を静かに追いながら、「生」と「死」を考えさせてくれる作品
これは私が一番好きな中国映画と言ってもいいくらい、素晴らしい映画です。93歳の現役理髪師チン爺さんの静かな暮らしを描いているだけなのですが、何気ない会話や出来事から、「老い」「変化」「死」についてたくさん考えさせてくれます。
再開発のため家の立ち退きを迫られても、死が近いからと悠長に構えるチン爺さん。一方で、今後20年間有効の新しい身分証の写真映りを気にするあたりが何ともいじらしい。そして、毎日5分遅れるゼンマイ時計や、白髪にクシを入れる習慣がこの映画ではとても重要な要素になっていて、実にいいのです。
葬儀屋さんに電話して死の準備を始めるシーンは切なくもありますが、自分の略歴を力強く語ってテープに録音するチン爺さんからは、人生に対する誇りが伝わってきました。もっと自分が年をとったときに観たら、きっとまた違った感じ方があると思います。
主演のチン・クイさんは、92歳にしてこの映画がデビュー作。この映画では自分自身を演じているわけですが、表情やしぐさにとても胸を打つものがあります。見事なカミソリ捌きと、ジョリジョリと響く音が心地よく、胡同の古い町並みも情緒たっぷりです。
ラスト、コーション
色、戒(Lust, Caution)
米・中・台 / 2007年(日本公開2008年)/ 158分
監督:李安(アン・リー)
脚本:王蕙玲(ワン・ホイリン)/ ジェームズ・シェイマス
出演:梁朝偉(トニー・レオン)/ 湯唯(タン・ウェイ)/ 王力宏(ワン・リーホン)/ 陳冲(ジョアン・チェン)
命を狙われる孤独な男と、命を狙う孤独な女の激しく悲しい恋物語
「ラスト、コーション」というタイトルは、日本語にすると「肉欲、警告」。そんな漢字の持つイメージがピッタリの作品でした。序盤から空気感がすごく、引き込まれます。
話題となったトニー・レオンとタン・ウェイの過激なベッドシーンは、ここまでやらなくても…と思ってしまいましたが(タン・ウェイはこの体当たり演技のために中国映画界を事実上追放される)、でも2人の孤独さゆえの激しさのような気もしました。
数年がかりの暗殺計画が、あと少しで達成できるというときの必死の決断と悲しい結末。後味は悪いですが、終盤の男女2人の心の葛藤に思わずため息です。
さくらんぼ 母ときた道
桜桃(Cherries)
日本・中国 / 2007年(日本公開2008年)/ 107分
監督:張加貝(チャン・ジャーベイ)
脚本:鮑十(パオ・シー)
出演:苗圃(ミャオ・プー)/ 妥国権(トゥオ・グゥオチュアン)/ 龍麗(ロン・リー)
知的障害を持つ母から娘への大きすぎる愛
知的障害を持つ妻と足の不自由な夫。この若くて貧しい夫婦の間には、なかなか子どもができないのですが、ある日、妻が捨て子を拾ってくることで物語が始まります。この母親役の女優さんの演技がとにかくすごいです。心から子どもを欲しがっていただけに、「我が子」を得たときの喜び、失ったときの悲しみが痛いほど伝わってきました。
思春期を迎えた娘が徐々に知的障害の母の存在を恥ずかしくうとましく思い始め、そしてそんな娘の変化に気付きながらも、どう対応してよいかわからず、ひたすら無垢な愛を注ぎ続ける母。見ていて本当に哀しいものがありましたが、それでもやっぱり、母の大きな愛情と偉大さにはかなわないと最後には思い知らされます。
この母親役、ノーメイクで髪はボサボサで決して綺麗ではないのですが、実はミャオ・プーという有名な美人女優さんが演じていたのがまた驚きでした。
大人になって初めて、昔の母親の愛情に気付くことってありますよね。娘の立場として、もう一度観たい作品です。
花の生涯~梅蘭芳(メイ ラン ファン)
中国 / 2008年(日本公開2009年)/ 148分
監督:陳凱歌(チェン・カイコー)
脚本:厳歌苓(ゲリン・ヤン)
出演:黎明 (レオン・ライ)/ 章子怡 (チャン・ツィイー)/ 孫紅雷 (スン・ホンレイ)/ 陳紅 (チェン・ホン)/ 王学圻 (ワン・シュエチー) / 余少群 (ユィ・シャオチュン)/ 安藤政信 / 六平直政
実在した京劇俳優・梅蘭芳の壮絶な生涯を描いた伝記映画
私自身、京劇にはそれほど興味がないのですが、芸一筋に生きる役者たちの世界というのは面白い。「さらば、わが愛」と同様、この映画を観ると、京劇が中国でいかに絶大な支持を得ているかが分かります。
「さらば、わが愛」のレスリー・チャンとコン・リーに比べると、レオン・ライ、チャン・ツィイーのインパクトは弱かったですが、青年時代を演じた余少群 (ユィ・シャオチュン)は、本物の京劇俳優かと思ってしまうほどの演技と色気で前半は京劇の世界に引き込まれました。
日本人俳優、安藤政信さんの中国語での演技もすばらしい。その後も中華圏で活躍されているようなので、今後が楽しみです。
狙った恋の落とし方。
非誠勿擾(If You are the One)
中国 / 2008年(日本公開2009年)/ 125分
監督:馮小剛(フォン・シャオガン)
脚本:馮小剛(フォン・シャオガン)
出演:葛優(グー・ヨウ)/ 舒淇(スー・チー)/ 範偉(ファン・ウェイ)/ 徐若瑄(ビビアン・スー)
中国に北海道ブームをもたらした大ヒット「婚活」映画
この映画の見所は、セリフの面白さ(奥深さ)と北海道の美しさ。コメディのようでコメディでない、切ないラブストーリです。中国では大ヒットした作品なのに、日本であまり話題にならなかったのはこの邦題のせいかもしれません。
グー・ヨウ演じる主人公は、50歳手前のスキンヘッドのおじさんで、ビジュアル的にも 「え、このおじさんのラブストーリー?」と最初は思ってしまうのですが、そんな見た目とは裏腹に、とっても人が良くて、憎めないおじさんなのです。そんな主人公の純粋さを、もっとタイトルに表して欲しかったなと思います。あまりの大ヒットに続編も作られたので、こちらも要チェックです。
小さな村の小さなダンサー
オーストラリア / 2009年(日本公開2010年)/ 117分
監督:ブルース・ベレスフォード
脚本:ジャン・サーディ
出演:曹馳(ツァオ・チー)/ 陳冲(ジョアン・チェン)/ ブルース・グリーンウッド / アマンダ・シュル/ グオ・チャンウ / ホアン・ウェンビン
中国農村出身の名バレエダンサーの激動の半生を綴った自伝を映画化
これはすみません、中国映画ではないですね。でもぜひご紹介したい作品。
原作『毛沢東のバレエダンサー』を読んでから観ました。原作に比べ、幼少期の農村での生活の苦しさ、家族の絆、幼くして家族と引き離された北京での学校生活の辛さがあっさりと描かれていた分、最後、亡命に至るときの主人公の葛藤があまり伝わってきませんでしたが、それでも、バレエシーンの見応え、緊迫感は、映画ならではでした。
主演は、実際に中国出身で英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団のプリンシパルとなったツァオ・チーが演じており、バレエシーンは本当に素晴らしいです。
最後、映画『リトルダンサー』のように、両親が息子の舞台を見にはるばる田舎からやって来るのですが、その演目の曲が個人的に残念だったポイント。感動的な場面だけに、もっと染み入るような曲で観たかったです。
文化政策により、たまたま政府に選ばれてバレエの英才教育を受け、貧しく閉鎖的な中国の農村、大都会北京、そして自由の国アメリカでこのような激動の人生を送ったバレエダンサーがいたことに驚かされる作品です。
海洋天堂
海洋天堂(Ocean Heaven)
中国・香港 / 2010年(日本公開2011年)/ 98分
監督:薛暁路(シュエ・シャオルー)
脚本:薛暁路(シュエ・シャオルー)
出演:李連杰(ジェット・リー)/ 文章(ウェン・ジャン)/ 桂綸鎂(グイ・ルンメイ)
癌に侵され余命数ヵ月の父と自閉症の息子の物語
ジェット・リー主演ということと、ストーリーに惹かれて観ました。ジェットがカンフーを封印し、病に侵されながらも自閉症の息子を一人で育てるやさしい父親を演じています。
妻には先立たれ、自分は癌で余命わずか。自分が死んだら身寄りをなくす自閉症の息子。最初このストーリーを読んだときは、「辛い…。自分だったら耐えられない」と思いましたが、映画の中のジェットと、彼を見守る周囲の人々のやさしさに、勇気づけられた人も多いのではないでしょうか。そして、そんな父の愛情を理解していないようで実は理解していて、最後には「一人で生きていける」という希望を感じさせてくれる息子ターフーの姿が感動的でした。
「平凡にして偉大なる すべての父と母に捧ぐ」という、シュエ監督のメッセージがまたよく、彼女は北京電影学院の大学院生だった頃から14年間続けた自閉症患者施設でのボランティア経験をもとにこの脚本を書き、映画化するに当たって、この業界で一番自閉症児を理解している自分が監督するしかない、と初めてメガフォンを執ったそうです。ジェット・リーも脚本に感動してノーギャラで出演を受けたほどで、この映画に関わった方々の思い入れが伝わってくる作品でした。
孔子の教え
孔子(Confucius)
中国 / 2010年(日本公開2011年)/ 125分
監督:胡玫(フー・メイ)
脚本:陳汗(チェン・ハン)
出演:周潤發(チョウ・ユンファ)/ 周迅(ジョウ・シュン)/ 陳建斌(チェン・ジェンビン)
儒教の祖として知られる孔子の半生とその思想を描く
孔子が50代で魯の大司寇、国相代理になった頃から亡くなるまでの期間を描いています。意外にも、中国映画でこれまで孔子を描いた作品はほとんどなかったとのこと。論語の言葉はいくつか知っていますが、孔子がどんな人生を送ったかは知らなかったので興味深かったです。
前半は、政治的エピソードや戦闘シーンがあり、孔子が思想家であるだけではなく、政治家の策士としての才能もあったことを初めて知りました。そして後半の過酷な旅を通して描かれる弟子たちとの師弟愛がとても印象的。
孔子の言葉、理想のリーダー像を学びたい人にオススメの作品です。
まとめ
いかがでしたか?改めて振り返ると、「變臉」「胡同の理髪師」「ココシリ」など、超メジャーではない隠れた名作が個人的には好きなようです。皆さんの好きな中国映画があった場合も、なかった場合も、ひとつの参考にしていただければ幸いです。
やはり中国映画は第五世代からの勢いがすごいですね。冒頭で書いた北京の「中国電影博物館(※2007年にオープンした世界最大規模の映画博物館)」では、1905年の中国映画の誕生からの100年の歴史が紹介されていて、とても興味深かったです。中国政府が映画産業に力を入れているだけあって、ものすごい展示の量でした(1階~5階、計20コーナー、見学通路は単純計算で約3キロにもなり、私は2日に分けて見学しました)。このあたり、もっと掘り下げて書きたいのですが、北京滞在時に書いていたブログが消えてしまい、詳細をレポートできないのが残念!写真もたくさん撮ったんですけどね。これまでの中国映画作品がぎっしりとパネルで紹介されていたり、有名作品のセットや衣装が展示されていたりと、中国映画ファンなら感動すること間違いなしのこの博物館。こんなご時世ですが、機会があればぜひ行ってみてください。
今回紹介しきれなかった2010年以降のおすすめ作品は、第二弾で紹介したいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。