こんにちは、フリーランス映像翻訳者のelly (@ellyeblog) です。
中華圏の映画が好きな私ですが、中でも張芸謀(チャン・イーモウ)監督の作品は大好き。大学時代に『あの子を探して』を観て感動したのがきっかけで、以来、監督の古い作品もさかのぼって観まくりました。私が中国映画を好きになったのも、彼のおかげと言ってもいいくらい。
今回は、これまでに観たチャン・イーモウ監督作品をご紹介します。ストーリーは少しネタバレを含んでいるものもありますので悪しからず!
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あの子を探して
中国・米国 / 1999年(日本公開2000年)/ 106分
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
脚本:施祥生(シー・シアンション)
出演:魏敏芝(ウェイ・ミンジ)/ 張慧科(チャン・ホエクー)
貧しい農村で素朴に力強く生きる、13歳の教師と子どもたちを描いた作品
大好きなチャン・イーモウ監督作品の1つで、オール素人キャストでも有名な作品。主演のミンジをはじめ、子どもたちの素朴さがこの映画の最大の魅力です。
中学校も出ていない13歳の少女が、小学校の代理教師を務めるという設定にまず驚きますが、子どもたちが出稼ぎに行くこと、とてつもなく長い距離を延々と歩くこと、すべてが現実なんだと思い知らされました。
映画の中のミンジは、とにかく歩き、書き、待ちます。時間の流れ方が私たちとは違うけれど、そこに農村の子どもの力強さを感じました。チャン・イーモウ監督も、スタッフとして参加した『黄色い大地』 の撮影中に、とてつもない距離を歩いて通学する僻地の子どもたちを見て、いつか小学校の物語を撮ろうと決意したのだそうです。
この映画で好きなシーンは山ほどありますが、序盤でチョーク1本にどれだけ価値があるのかを伝え、ラストシーンでそれが活かされている展開は見事です。
初恋のきた道
中国・米 / 2000年(日本公開2000年)/ 89分
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
脚本:鮑十(パオ・シー)
出演:章子怡(チャン・ツィイー)/ 孫紅雷(スン・ホンレイ)/ 鄭昊(チョン・ハオ)/ 趙玉蓮(チャオ・ユエリン)
チャン・ツィイーのデビュー作。一本の道を通して育まれた一途な恋
映画館で観て号泣した作品。可憐すぎるチャン・ツィイーと、美しい農村の風景や音楽にどっぷりのめりこんだのを覚えています。
ストーリーは、息子が父と母の恋物語を語るという、現代と過去を組み合わせた形で展開します。なのでチャン・ツィイー(若かりし頃の母)が登場するのは「過去」の部分。一途な想いでひたすら走り、ひたすら待つ姿が本当に健気でキュンときます。そして息子から両親への親孝行を描いた「現代」の部分もまた感動的。教師だった父が生涯立ち続けた教壇で、たった1時間だけど、父と同じように授業を行う息子。あの朗読のシーンで涙腺崩壊…。
出会い、別れ、再会と、すべてが詰まった1本の道。『初恋のきた道』 という邦題は素晴らしいと思います。
至福のとき
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
脚本:鬼子(グイズ)
出演:趙本山(チャオ・ベンシャン)/ 董潔(ドン・ジエ)/ 傅彪(フー・ピアオ)
盲目の少女と冴えない中年男の、温かくも切ない物語
やっぱり好きです、チャン・イーモウ監督作品。冴えない中年の独身男が、見合い相手に見栄を張ったために盲目の少女の世話をすることになり、そんな2人の切ない交流を描いた物語。とにかく愛らしく健気な盲目の少女。嘘つきだけどおバカで憎めない中年男とその仲間たち。そして、少女を厄介者扱いする、意地悪なデブの義理親子。この個性豊かなキャラクターたちのおかげで、まったく飽きることがありませんでした。
少女と中年男チャオの心の距離がだんだん縮まっていく描写が何とも良い。特に、街で少女がチャオの顔をさわって顔を確認するシーンとか、傍から見れば仲のいい本物の親子です。他にも思わず「上手い!」と思うような演出がたくさんある作品でした。
チャオの従弟フー役を演じたフー・ピアオさんもいい味出してましたが、2005年に42歳の若さで亡くなってしまった俳優さんなんですね。当時、中国映画界がこぞって彼の死を悼んだそうですが、本当に残念です。この映画、中国公開時はハッピーエンドだったそうなので、ハッピーエンド版もぜひ観てみたいものです。
紅いコーリャン
中国 / 1987年(日本公開1989年)/ 91分
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
脚本:莫言(モー・イエン)
出演:鞏俐(コン・リー)/ 姜文(チアン・ウェン)/ 勝汝駿(トン・ルージン)
チャン・イーモウ監督、コン・リーの衝撃デビュー作
言わずと知れた、チャン・イーモウ監督の初監督作品で、コン・リーの女優デビュー作です。こんなに反日的な内容だったとは…。終盤、日本兵が村人を拷問するシーンなどは見るに耐えませんでしたが、当時の中国では、日本人はこう描かれるしかなかったのでしょう。真っ赤な夕日に赤いコーリャン酒、戦火と血の赤い色。とにかく「紅」の使い方が強烈でした。
なぜ、コン・リー演じるチウアルが、あんな野蛮な男ユイに惹かれていったのか、なぜユイのおかげで突然銘酒が出来上がったのか。私には理解しがたい点もありましたが、それでもやはり中国映画史の中では時代を画する作品の1つと言われているのがうなずける作品でした。
菊豆
中国・日本 / 1990年(日本公開1990年)/ 93分
脚本:劉恒(リュウ・ハン)
出演:鞏俐(コン・リー)/ 李保田(リー・パオティエン)/ 李緯(リー・ウェイ)
不能な老人に嫁ぎ、その甥と結ばれ、破滅に向かう悲劇のヒロイン
チャン・イーモウ監督の「幸せ三部作」を先に観ていた私としては前回の『紅いコーリャン』に続き、やや衝撃的で重苦しさが残る作品でした。でも染物屋が舞台なだけあって色彩や反物の演出がすばらしい。そして、コン・リーの色気がすごいです。
後半は、ちょっとヒステリックに豹変しちゃって怖かったですが、破滅に向かっていく様が伝わってきました。逆に前半は憎たらしかったおじさん(金山)が、後半はかわいそうに思えたりと、感情移入のやり場に困ったり。封建的で自由に恋愛できないだけでも悲劇なのに、さらに息子が不気味なほど怖い。本当はしゃべれるし、笑うこともできる子供なのに、かたくなに言葉を発しず笑顔を見せない理由は、結局、どこか醜い心を持った周りの大人たちのせいということなのでしょうか。身内の葬儀のときに、棺を49回泣きながら止めて孝行心を捧げる「棺止め」という風習も興味深かったです。
紅夢
中国・香港 / 1991年(日本公開1992年)/ 125分
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
出演:鞏俐(コン・リー)/ 何賽飛(ホー・サイフェイ)/ 曹翠芬(ツァオ・ツイフェン)
富豪の第4夫人として嫁いだ19歳の少女と、妾たちの愛憎を描く
数あるチャン・イーモウ&コン・リー作品の中でも好きな作品。舞台となる屋敷の、整った構図と紅い提灯が美しく、音楽に頼りすぎていないところやコン・リーの抑えた演技がむしろ効果的でした。
家法や古いしきたりを重んじる、封建的な富豪一家の中で、旦那様(絶対に顔が映らない!)の寵愛を得て男の子を産むことだけを目的に生きている正妻と妾たちの女の闘い。「へぇ~」と思うようないろいろなしきたりが出てきて、それが実に面白かったです。
夏に始まり、秋、冬と季節が進んでいくストーリー。そして再び夏になり、悲劇の繰り返しを感じさせるラストにはやられた!という感じでした。
秋菊の物語
中国・香港 / 1992年(日本公開1993年) / 101分
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
脚本:劉恒(リュウ・ホン)
出演:鞏俐(コン・リー)/ 劉佩琦(リュウ・ペイチー)/ 雷恪生(レイ・カーション)/ 戈治均(ガー・チージン)
農村から都会に出て裁判に奔走する「ど根性主婦」を描いた、社会風刺物語
農村である事件(?)が起き、一人の主婦が、ただ「筋を通したい」という一心で奔走し、次第に大きな裁判沙汰に発展していくという物語。「一言謝れば済むのに…」と思うような些細な出来事が発端であること。そして、身重な体で「何でそこまでムキになるの?」と思ってしまうほどの裁判に対する主人公の執念深さ。中国人の「面子」が絡んだこの2つの要素が下地となって、ラストはかなり皮肉的でした。形だけの法律に対し、結局市民は何もできないということでしょう。主人公が農村から都会に出る場面の、主人公の不安そうな姿も描き方が上手で、中国の都市と農村の格差を感じました。
活きる
中国 / 1994年(日本公開2002年)/ 131分
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
脚本:余華(ユイ・ホア)/ 蘆葦(リー・ウェイ)
出演:葛優(グー・ヨウ)/ 鞏俐(コン・リー)/ 姜武(ジアン・ウー)
1940~70年代の激動の中国を慎ましく生き抜いたある家族の物語
1940年代の国共内戦から70年代の文革までの激動の中国を生きる夫婦を、グー・ヨウとコン・リーの名優が演じています。
賭博で家を失い、内戦で死の淵をさまよい、それでも笑顔を忘れず生きる家族。しかし夫婦には、息子の事故死、娘のお産による出血死と、悲劇がこれでもかというくらい襲います。
重い映画ではありますが、運命を受け入れて生きていく夫、そんな夫を力強く、明るく支えて生きていく妻。人間は、辛い出来事を乗り越えて生きていくしかないということを教えてくれます。だから後味も決して悪くはありませんでした。
息子を事故死させた加害者である元友人が走資派と批判され、妻が自殺し、生きる希望を失っているときに、この夫婦が、「とにかく耐え抜け」「生きるのよ!」と諭すシーンが印象的。この先、人生で辛いことがあったとき、お世話になる1本かもしれません。
HERO 英雄
英雄(Hero)
中国・香港 / 2002年(日本公開2003年)/ 99分
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
脚本:張芸謀(チャン・イーモウ)/ 李馮(リー・フォン)/ 王斌(ワン・ビン)
出演:李連杰(ジェット・リー)/ 梁朝偉(トニー・レオン)/ 張曼玉(マギー・チャン)/ 章子怡(チャン・ツィイー)/ 陳道明(チェン・ダオミン)/ 甄子丹(ドニー・イェン)
始皇帝暗殺未遂を豪華キャスト、チャン・イーモウの色彩美で描いたアクション史劇
最強の暗殺者3人を殺した男が、秦王にその経緯を語る。簡単に言うとそれだけの話なのですが、ただのアクション映画ではない、深い、骨太なドラマでした。
エピソードごとに黒・赤・青・白・緑と色分けされた、その個々の色彩美が圧巻で、構成と映像がとてもマッチしています。ワダエミさんの衣装の、柔らかな素材感にもこだわりが感じられます。
ワイヤーアクションには抵抗がある私ですが、この作品のワイヤーは不思議と許せる。血生臭い、薄っぺらなアクションシーンがないのも良かったです。
豪華俳優陣は皆さん素晴らしいのですが、この作品のジェット・リーは凛々しい演技で、他の作品で見るよりもかっこ良く見えました。秦王を演じたチェン・ダオミンも渋く、宮殿に響く声の迫力のすごいこと。
天下を憂い、個人の恨みではなく大きな視野に立った刺客と秦王の心理描写。ラストシーンで、この映画が伝えたいことがはっきりと分かりました。
LOVERS
十面埋伏(House of Flying Daggers)
中国 / 2004年(日本公開2004年)/ 120分
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
脚本:張芸謀(チャン・イーモウ)/ 李馮(リー・フェン)/ 王斌(ワン・ピン)
出演:金城武 / 劉徳華(アンディ・ラウ)/ 章子怡(チャン・ツィイー)
壮絶な三角関係を美しい映像で描く、愛憎アクション
映像の美しさ、チャン・ツィイーの美しさ、金城武の美しさに惚れ惚れする作品。2人とも、この映画での美しさは最高なんじゃないでしょうか。アンディ・ラウのかっこよさが霞んでしまうほど。チャン・ツィイーは舞踏の才能もあるんですね。冒頭の遊郭での舞いのシーンだけでも、この映画を観る価値があります。
ストーリーは評価が低いようですが、だまし、だまされる人間関係や愛憎劇は結構楽しめて、私にとっては 『HERO』 と同じく好きな作品です。こういう重厚な中国映画、時々観たくなります。
サンザシの樹の下で
中国 / 2010年(日本公開2011年)/ 113分
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
脚本:尹麗川(イン・リーチュエン)
出演:周冬雨(チョウ・ドンユィ)/ 竇驍(ショーン・ドウ)/ 奚美娟(シー・メイチュアン)
文化大革命の時代に散った、はかない恋の物語
『あの子を探して』 『初恋のきた道』 といったチャン・イーモウ監督作品が大好きなので、久々の純愛作品!と期待して観ました。そして期待通りの良い作品。まず主役の二人がとても爽やかで、特にチョウ・ドンユイさんの笑顔の可愛さ、表情に魅了されっぱなしでした。一見地味なのにあの存在感は凄いです。観てるこっちが恥ずかしくなるくらいの純愛さでしたが、中国の文革という時代について、いろいろ考えさせられる映画でもありました。
まとめ
こうしてみると、ものすごい名作の数々。一番のお気に入りはとても選べません。同じ監督の作品でも時代と共に変化していって、それぞれの良さがあります。私が20代の頃に観た作品がほとんどなので、40代になった今観たら、きっとまた違った気づきや感じ方があるのでしょう。もう一度じっくりと、個々の作品を味わいたいものです。
最後までお読みいただきありがとうございました。